パーキンソン病は手足のふるえ(振戦)、動作が鈍くなる(運動緩慢)、手足や体のこわばり(筋強剛),歩きづらいなどの症状が出現する代表的な神経難病(神経変性疾患)のひとつです。また、パーキンソン病に類似した症状がおこる他のパ-キンソン症候群(線条体黒質変性症、皮質基底核症候群、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、レビー小体型認知症、ペリー症候群など)もあります。
パーキンソン病治療センターではこれらの神経疾患の診断と治療を行っています。薬物治療とリハビリテーションを中心に、外来治療、入院治療を実施しています。
当センターは豊富なパーキンソン病および関連疾患の診療経験を有し、多くの患者さんの治療実績があります。患者さんやご家族に対して,病気について正しく理解していただくためにパーキンソン病教室を随時開催しています。
パーキンソン病は主に50歳以降に発症し、小刻み歩行や手足のふるえなどの運動障害が出現する進行性の疾患です。高齢になるにしたがって増加傾向にあります。
症状の種類や程度、経過は患者さんによって個人差があります。
脳幹という頭の中心の深い場所にある中脳黒質のドパミン神経細胞の変性、脱落により神経伝達物質の一つであるドパミンが減少することで起こると考えられています。ドパミンは運動のしくみを調整するような働きを担うため、ドパミンが減ることにより体の動きが鈍くなったり、体の緊張が高くなったりします。パーキンソン病の多くは原因不明で、一部を除き遺伝することはありません。
パーキンソン病の有病率は人口1000人当たり約1人と言われており、日本全体で10万人以上の患者さんがいると推定されています。
病初期から排尿障害などの自律神経の乱れ(自律神経症状)、飲み込みの悪さ、睡眠中のいびきや無呼吸が目立ちます。
目の動きが悪くなる、すくみ足などの症状がみられ、病初期から転びやすくなるなどが現れます。
ある特定の動作ができない、言葉の扱いがむずかしくなる、片側の空間にあるものを認識しない、片手が勝手に動く、認知症などの症状もみられます。
服用した薬の副作用として起こるもの。抗精神病薬で生じやすいのですが、制吐薬や抗うつ薬で起こることもあります。薬の減量や中止で症状は改善します。
小さな脳梗塞が多発した場合、運動機能が障害されパーキンソン病と非常によく似た症状が現れることがあります。脳血管障害の再発予防を目的とした生活習慣の改善や薬物治療が中心になります。
頭蓋内を満たしている髄液の流れが滞り。脳を圧迫することで起こります。歩行障害、尿失禁、認知機能障害が代表的な症状です。手術で症状の改善が期待でき、当院の脳神経外科と連携して治療を行います。
従来はパーキンソン病の診断の決定的な検査がありませんでしたので、4大症状の有無やその程度を診断基準に照らして判断することが中心でした。パーキンソン病と似た症状を引き起こす他の疾患(脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、硬膜下血腫、甲状腺機能亢進症など)と区別するためにCT/MRI検査や血液検査による鑑別診断を行い、異常がなければパーキンソン病薬を服用して効果があるかどうかをみるという流れが一般的でした。
最近では以下に述べますドパミントランスポーターシンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィなどの検査によって、精度の高い診断が可能になりました。
当院ではこれらの検査を比較的迅速に施行することができます。
甲状腺機能亢進症で著明な振戦、甲状腺機能低下症で動作緩慢が出現することがあります。稀に肝機能障害でもパーキンソン病に似た症状を呈することがあります。
脳内の部位の形の変化を見る検査です。パーキンソン病では健康な人との区別がほとんどつきません。パーキンソン病と似た症状がみられる他の病気には、脳腫瘍、硬膜下血腫、脳梗塞や脳出血などがあり、これらの病気を正確に鑑別する目的でMRI やCTなどの画像検査を行います。
パーキンソン病では線条体のドパミントランスポーター(DAT)が減少していることが知られています。したがってDATに親和性の高い薬剤を使うことでドパミントランスポーターの分布状態を画像化し、神経細胞の変性や脱落の程度を知ることができます。
心臓の交感神経の機能を見る検査です。パーキンソン病では心臓の交感神経の機能が低下し、MIBGの取り込みが少なくなることが知られています。(ただし、取り込みが低下していても心臓の働きには問題ありません。)パーキンソン症候群との鑑別に非常に有用な検査です。
脳の血流量を見る検査です。パーキンソン病では初期には血流量は落ちません。多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症では初期から特定の部位に血流量の低下がみられることがあり、鑑別診断には有用な検査です。
パーキンソン病では比較的早い時期から嗅覚が落ちてくることがあるため、早期発見に利用できることがあります。
治療の中心は薬物治療であり、パーキンソン病と診断された場合はまず薬物治療が開始されます。薬物治療によりパーキンソン病の症状がかなり軽快します。パーキンソン病には様々な薬物があります。それぞれの薬物には特徴があり、症状や年齢、活動度に応じて薬物の種類、投与量、組み合わせを考えて処方されます。パーキンソン病では脳内のドパミンが不足しているため、それを補うL-ドパやドパミンの代わりに作用するドパミンアゴニストが治療薬の中心となります。薬物治療を受けるときは、医師の処方通りにきちんと飲むことが大切です。御自分の判断で勝手に薬物の用量を調節したり、中止しないようにしましょう。
主なパーキンソン病治療薬
パーキンソン病は治療経過において、治療の難しいさまざまな症状が出現することがあります。治療開始当初は薬物の効果があり、うまく症状をコントロールすることができます(ハネムーン期)。しかし治療期間が長くなってくると、薬物の効果が長続きせずに3~4時間おきに内服をしないと薬物のが切れてしまう状態(ウェアリング・オフ現象)や、薬が効きすぎてしまい体がくねくね意図せずに動いてしまう状態(ジスキネジア)といった“運動合併症”が生じることがあります。
パーキンソン病が進行すると薬が効いている時間が短くなり、次の薬を飲む前に効果が切れるウェアリング・オフ現象など1日のうちで薬の効くとき(オン)と効かないとき(オフ)がみられるようになります。パーキンソン病が進行するとドパミン神経が減少して、ドパミンを保存しにくくなります。そのためL-ドパの効果が短くなり、次の薬を飲む前にパーキンソン症状があらわれてしまいます。治療として、L-ドパの服薬回数を増やしたり、持続時間が長いドパミンアゴニストやL-ドパの作用を長続きさせるMAO-B阻害薬、COMT阻害薬などを併用します。
自分の意思に反して手足などが勝手に動く症状で、L-ドパの血中濃度が高くなった時に出現します。症状の強さの程度はさまざまですが、気にならなければ対処する必要はありません。パーキンソン病が進行するとドパミン神経が減少し、ドパミン受容体の刺激が一定に行われなくなり、ドパミンを受ける側の神経の興奮の調節がうまくできなくなってジスキネジアが発現すると考えられています。動作の邪魔になるほど強いジスキネジアの場合、その原因となる薬剤の減量を行ったり、L-ドパの総量を変化させず1回の服用量を減らして頻回に服用することで対応したりします。
内視鏡を使用して胃ろうを造設し、空腸までチューブを挿入します。そのチューブに体外式のポンプをつなぎ、レボドパ・カルビドパ製剤を持続的に投与するデバイス補助療法の一つです。進行期では,運動合併症の治療のために少量のレボドパ製剤を何回にも分けて内服するという方法を選択せざるを得ないのですが、それでも血中濃度の「山」と「谷」ができてしまいます。LCIGはポンプを用いて一定速度で薬物を投与し続けるので、血中濃度の「山」と「谷」がなくなり血中濃度を一定に保つことができるため、ウェアリング・オフ現象を改善させ、ジスキネジアの発現をおさえることができます。当院でも消化器内科と連携して実施しています。
1990年代から海外ではじまり、日本でも2000年ころから行われるようになり、これまでに3000人以上の方が国内でもこの治療を受けています。脳の深いところに電極となる細い針を植え込み、胸部にパルスジェネレーターと呼ばれる小型の刺激電源を埋め込み、両者をリード線でつないで電極を通して脳の奥深くに電流を持続的に流し、薬物治療でコントロール困難な症状の軽減を図るものです。ウェアリング・オフやジスキネジアがでてしまって困っている方や吐き気などの副作用が強くでてしまい薬物を十分に増やせない方に有効です。パーキンソン病では内服薬治療が原則ですので、手術を受けられた方でもその後、内服薬や電気刺激の調整が必要になります。
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